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峰岸真澄(リクルートHD会長)の「グローバル戦略」と挑戦の軌跡|成功を支えるキャリアと哲学

峰岸真澄(リクルートHD会長)の「グローバル戦略」と挑戦の軌跡|成功を支えるキャリアと哲学

株式会社リクルートホールディングスの代表取締役会長兼取締役会議長である峰岸真澄氏は、同社を国内のリーディングカンパニーから、売上の約半分を海外事業で占める真のグローバル企業へと変貌させた立役者です。

2012年の社長就任以降、彼は組織の抜本的な変革と、世界市場での戦略的なM&Aを推進し、「非連続な成長」を実現しました。

この記事では、彼の多岐にわたるキャリアがどのようにグローバル戦略に結実したのか、そして彼の成功を支える「個の可能性を解放する」という経営哲学と、その人となりについて深く掘り下げて解説します。

峰岸真澄のキャリアと挑戦の軌跡:グローバル飛躍への土台

まずは、峰岸真澄氏の基本情報を確認しましょう。

峰岸真澄氏-株式会社リクルートホールディングス公式サイトより峰岸真澄氏-株式会社リクルートホールディングス公式サイトより
名前 峰岸 真澄(みねぎし ますみ)
生年月日 1964年1月24日
出身 千葉県
学歴 立教大学経済学部
職業 株式会社リクルートホールディングス代表取締役会長
株式会社リクルートホールディングス取締役会議長
江副記念リクルート財団代表理事理事長
コニカミノルタ株式会社 社外取締役
ANAホールディングス株式会社 社外取締役

1964年1月24日生まれの峰岸真澄氏は、1987年4月に株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に新卒で入社し、最初に自動車情報事業部に配属されました。

彼のキャリアは、この初期の配属先である現場で培われた圧倒的な当事者意識と、新しい価値創造への挑戦に特徴づけられます。

詳細なキャリアパスとIMC-DC長としての事業統括

結婚情報誌『ゼクシィ』
画像引用:https://zexy.net/

自動車情報事業部での経験を経た後、峰岸氏は結婚情報誌『ゼクシィ』を擁するゼクシィ事業部へと異動しました。その後、1994年10月にはゼクシィ事業部 営業マネジャーに昇進し、ネット商品企画系のマネジャーも兼任するなど、紙媒体からデジタル領域への移行期における事業戦略と営業の最前線で実績を上げました。そして2002年4月にはゼクシィ事業部長に就任し、事業全体の責任を担っています。

彼のキャリアにおける重要な転換点の一つが、2003年4月に執行役員に就任し、同時にIMC-DC(Integrated Marketing Communication Division Company)長を兼任したことです。このIMC-DCとは、ブライダル事業(ゼクシィ)、国内旅行事業(じゃらん)、海外旅行事業(AB-ROAD)、そして自動車事業(カーセンサー)といった、リクルートの主要な情報サービス事業を統合的に統括する部門であり、峰岸氏がこの時点で既に幅広い事業領域で経営手腕を発揮していたことがわかります。

住宅情報サービス『SUUMO』
画像引用:https://suumo.jp/

翌2004年4月には常務執行役員に昇進し、住宅DCとIMC-DCの担当を兼任しました。この時期、彼は複数のドメインの事業責任者として、住宅情報サービス『SUUMO』ブランドの統合・強化といった、事業の効率化とブランド力向上を主導しています。

経営中枢での戦略策定と事業統括

2009年6月には取締役 兼 常務執行役員に就任し、経営企画室、事業開発、住宅領域を担当するなど、経営の中枢において全社的な戦略策定と新規事業の立ち上げに深く関与しました。

さらに2011年4月には取締役 兼 専務執行役員へと昇進し、経営企画室、全社WEB戦略、事業統括本部副本部長といった重要ポストを歴任しています。これらの経験が、翌年の社長就任と、その後のグローバル展開の基盤となりました。

グローバルテックカンパニーへの変革を主導

キャリアの転換点となったのは、2012年4月の代表取締役社長 兼 CEOへの就任です。彼はこの時期から、リクルートグループ全体の経営を担う中心人物として、グローバルテックカンパニーへの変革を強力にリードしました。

特に、世界最大級の求人検索エンジン「Indeed」の買収と、2014年のリクルートホールディングス東証一部上場を成功させ、同社をグローバル企業へと飛躍させました。

社長就任時、リクルートの海外売上比率はわずか3〜4%でしたが、彼のリーダーシップの下、リクルートの海外売上高は2012年の300億円から、2018年当時は売上全体(当時約2兆円)の約50%に迫るまでに成長しました。

また、彼は社長時代、時価総額1兆円を超える企業となることを明確な目標とし、「売上1000億円以上で年率成長率30%以上」を定量的なメルクマールとして設定し、その実現にコミットしました。また、2019年4月には公益社団法人経済同友会 副代表幹事に就任し、リクルートグループ外での経済界に対する貢献も行いました。

会長就任と社外取締役としての役割

2021年4月からは、株式会社リクルートホールディングス 代表取締役会長 兼 取締役会議長に就任し、経営の最高責任者として、コーポレートガバナンスの強化と中長期的な成長戦略の策定を担っています。

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さらに、彼はその豊富な経営経験とグローバルな視点を活かし、外部企業の経営にも参画しています。2022年6月からは、コニカミノルタ株式会社およびANAホールディングス株式会社の社外取締役に就任しており、これはリクルートで培った手腕が、異なる産業の企業経営においても重要視されていることを示しています。

経営戦略の核心:Indeed買収と世界ナンバーワンへの挑戦

2012年に代表取締役社長に就任した峰岸氏の最大の功績は、リクルートを世界レベルの企業へと押し上げたグローバル戦略の確立と実行です。

世界最大級の求人検索エンジン「Indeed」の獲得

グローバル戦略の象徴が、米国の求人検索エンジン「Indeed(インディード)」の買収です。彼は、上場後の投資余力を見据え、世界ナンバーワンを目指すという長期目標のもと、このM&Aを主導しました。

買収当初は懐疑的な見方もあったものの、リクルートの持つ経営資源と、M&A担当者を現地の責任者として送り込むという「骨をうずめる覚悟」の戦略を徹底し、Indeedを世界最大の求人情報サイトへと急成長させました。その結果、リクルートホールディングスの売上高の約半分を海外事業が占めるまでに変貌し、グローバル企業としての地位を確固たるものにしています。

特に、海外買収を成功させるために、彼は投資銀行を介さず、早い段階からビジネスディベロップメント(BD)チームが世界中を飛び回り、買収先企業の経営チームと直接コミュニケーションを取り、ビジョンや信頼関係が一致する企業のみを買収するという方法論を徹底しました。

また、買収前には、リクルートの世界トップクラスの収益率を持つ人材派遣事業のオペレーションノウハウなど、買収する側に質の高いアセットやノウハウがあることを前提とし、買収先の企業価値を高められる見込みがある場合にのみ投資を実行しました。

長期的なグランドデザインとイノベーションへのコミットメント

峰岸氏は、1兆円企業となるためには平均で約15年という長い期間が必要であるという認識のもと、20年程度の長期的なグランドデザインを描くことが重要だと訴えていました。彼は、この長期的な目標を達成するため、事業を「短期」「中期(5〜10年)」「長期(10〜20年)」の三つの時間軸に分け、それぞれに最適な投資とプロダクト開発を同時並行的に行うという戦略を推進しました。

また、イノベーションの定義について、彼は数十%程度の変革ではなく、これまでと「桁が一つや二つ違う」、圧倒的に高い生産性や利便性を提供できるプロダクトやサービスであることを社内で徹底させていました。

彼は、安易なマネタイズによって本質的なイノベーションの磨き込みが止まることを警戒し、長期的な視点での継続的な投資こそが、市場を変革するプロダクトを生み出す鍵だと強く主張していました。

上場による経営基盤の強化と投資余力の確保

彼は2014年のリクルートホールディングス東証一部上場を成功させました。上場の目的は、財務戦略の多様性と経営の透明性向上、そしてグローバルでの信頼性向上でした。

この上場によって、約7000億円という巨額の投資余力を確保し、これを海外の有力企業買収に戦略的に投入することで、中長期的な世界展開を可能にしました。

彼はこの資本施策の変革により、当時1.8兆円だった時価総額が大きく成長したと語っています。

成功を支える経営哲学と人となり

峰岸氏のリーダーシップとリクルートの成長を支える根幹には、独自の経営哲学と、周囲を惹きつける人となりがあります。

彼の考え方は、「正解の無い時代」において、個人の可能性を最大限に引き出すことに一貫して焦点を当てていますが、近年はこれを社会的な課題解決へと具体的に展開しています。

「変えないこと」を先に決める組織文化の堅持

彼の哲学の核心は、リクルートグループのミッションである「Follow Your Heart(自分に素直に、自分で決める自分らしい人生)」を実現することにあります。

彼は社長に就任した際、「変えないことは何か」を先に決めることで、それ以外のすべてを変えるという戦略的なアプローチをとりました。彼が変えないと決めたのは、リクルートグループの根幹である「起業家精神」と「圧倒的な当事者意識」、そして「ナレッジ交換したり互いに称賛し合える雰囲気」という強い個人を支える企業文化でした。

この企業文化を堅持しつつ、経営陣や組織体制、海外比率を大きく変化させることで、常に変化し続ける組織をつくり続けました。

また、リクルートグループには「40歳ぐらいで卒業する人が多い」という指摘に対し、彼は「推奨はしていないが、自ら卒業していくことを受け入れている」と説明しています。これは、個の尊重を重視する結果であり、圧倒的な当事者意識をもって事業を推進する中で、自分のウィルがリクルートの枠を超えたときに、次のステップへと進むことを尊重するという考え方です。

社会課題解決に向けた「タスク分解」と「柔軟な働き方」の提唱

公益社団法人経済同友会 副代表幹事も務めた峰岸氏は、少子高齢化と人手不足というマクロな社会課題に対し、具体的な経営戦略に基づいた解決策を提唱しています。

彼は、2030年までに約341万人、2040年には約1100万人が不足するという深刻な状況を解消するため、主に以下の二つが経営者自身で解決しうる大きな課題だと認識しています。

  1. 機械化・自動化・DXによる生産性向上への投資
  2. 65歳以上のシニアの労働参加率の向上

特にエッセンシャルワーカーを含むサービス産業の人手不足については、既存のフルタイムを前提とした業務プロセスを抜本的に見直すBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)が不可欠だと主張しています。これにより、仕事を細かくタスク分解し、機械化・自動化できない部分だけを人間に残すという手法を推奨しています。

これは、リクルート自身が採用で実践している手法でもあり、長時間労働を避けたいシニアや主婦層のために、マルチタスクではなくシングルタスクに切り出すことで、短時間でも働きたい人が働ける柔軟な働き方を実現すべきだと強く訴えています。

彼は、この柔軟性を提供することで、65歳から75歳までの層の労働参加率がわずかに向上するだけでも、日本の労働力不足に大きなインパクトを与えられると確信しています。

大学時代の経験と仕事との向き合い方

峰岸氏のキャリアの成功を支える仕事との向き合い方は、大学時代に数年間休止されていた学園祭の復活を成し遂げた経験に深く根ざしています。

当時の彼は、その事実をやり過ごすことができず、「なぜ休止になったのか」というピュアな疑問と好奇心を突き詰めた結果、「学生生活を賭けるほどの強い動機」が形成されたと語っています。

この経験から、彼は「やりたいというピュアな気持ち」を大切にし、一度決めたら最後までやり通す胆力の重要性を信条としています。この実証主義的なアプローチ、そして仲間とノウハウを共有し持続的な仕組みを作った経験こそが、リクルートの企業文化である「圧倒的な当事者意識」や「個の可能性に期待する場」を設定するという考え方に直結しています。

「WILL・CAN・MUST」にみる人材育成の軸

峰岸氏は、社員のモチベーションと成長を、リクルートが提唱する「WILL(やりたいこと)」「CAN(できること)」「MUST(やるべきこと)」のフレームワークで捉えています。

彼は、新入社員は「MUSTだらけ」で「CANが無い」状態から始まるが、MUSTをこなすことでCANが増え、無意識のうちにMUSTが小さくなっていくと説明します。そして、WILLとCANが交わって一つになった状態こそが、最もモチベーションが上がった状態であるという信念を持っています。

この考え方は、企業経営のみならず、子育てや人材育成全般における彼の軸となっており、社員に正解を押し付けず、目標を自分で設定させるという指導方針につながっています。

まとめ|リクルートの未来を照らす峰岸真澄氏の展望

峰岸真澄氏は、自動車情報事業部での基礎経験から、IMC-DC長としての多事業統括、そして世界最大級のM&Aまで、現場で鍛え上げられた事業開発力と、戦略的な経営手腕を融合させ、リクルートホールディングスをグローバルな巨人へと導きました。彼のキャリアはまさに「非連続な挑戦の軌跡」そのものです。

社長時代には、1兆円企業となるための定量的な目標設定と、長期的なグランドデザインを掲げ、桁違いのイノベーションへの投資を推し進めるという明確な戦略を実行しました。

現在は代表取締役会長として、リクルートが追求するマッチングソリューションを通じて、世界中の人々がより多くの選択肢を手にし、「Follow Your Heart」を実現できる社会の実現に向けた、長期的な戦略と経営システムの構築に尽力しています。

彼のリーダーシップと、ピュアな好奇心と当事者意識を重視し、個の可能性を解放する哲学は、「タスク分解」と「柔軟な働き方」という具体的な社会課題解決戦略へと進化しており、今後もリクルートの持続的なイノベーションと成長を力強く支えていくでしょう。

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