去る2024年12月12日、東邦亜鉛株式会社の元社長である手島達也(てしま たつや)氏がご逝去されました。享年78歳でした。心よりお悔やみ申し上げます。
手島氏は、長きにわたり東邦亜鉛の経営を牽引し、特に社長在任中にはその類稀なる行動力と実力至上主義に基づいた経営手腕を発揮しました。
本記事では、非鉄金属業界の重鎮として活躍した彼の偉大なキャリアの道のり、確固たる経営哲学、そして会社に残した計り知れない功績の足跡を網羅的に辿ります。
手島達也氏の経歴:慶應義塾大学卒業から東邦亜鉛トップへ至るキャリア
まずは、手島達也氏のプロフィールを見てみましょう。
手島達也-東邦亜鉛株式会社環境報告書2016より| 名前 | 手島 達也(てじま たつや) |
|---|---|
| 生年月日 | 1946年7月12日 |
| 死没 | 2024年12月12日(78歳没) |
| 出身 | 東京都 |
| 学歴 | 慶応義塾大学商学部 |
| 職業 | 元・東邦亜鉛株式会社社長 |
手島氏のキャリアは、日本の基幹産業である非鉄金属業界からスタートしました。1969年に慶應義塾大学商学部を卒業後、同年4月に東邦亜鉛株式会社に入社しました。
入社後は製錬所に配属され、現場の厳しい環境の中で業務のノウハウを徹底的に身につけました。この現場で培われた経験こそが、後の経営者としての的確な判断力や危機対応力を養う揺るぎない土台となったと推察されます。
彼はその後、キャリアを通じて金属・化成品事業本部など、会社の基幹となる部署を歴任し、事業本部長などの要職を経験しました。キャリアを積み重ね、2003年6月には代表取締役常務執行役員に就任し、経営の中枢を担うことになりました。
そして2006年6月、代表取締役社長最高執行責任者に就任、その後2008年6月には代表取締役社長となり、2017年6月までの約11年間にわたり同社のトップとして辣腕を振るいました。
社長退任後の貢献:社外取締役として発揮された豊富な経営知見
2017年6月に東邦亜鉛の社長職を退いた後も、手島氏はその豊富な知見を活かし、幅広い産業界に貢献し続けました。
古河機械金属株式会社や阪和興業株式会社などの社外取締役を歴任しており、これらの役職では、長年にわたる企業経営で培われた海外ビジネスを含む豊富な経験と幅広い知識に基づき、経営陣から独立した客観的な視点から企業経営に対して適切な助言と監督を行うことが期待されていました。
東邦亜鉛を強くした経営哲学:「実力至上主義」と若手育成への熱意
手島氏の経営哲学は、既存の枠にとらわれず、組織全体の最適化を徹底的に追求する姿勢にありました。彼は類稀なる行動力と新鮮なアイデア、枠にとらわれない奇抜さを特徴とし、思いついたことには即座に挑戦していく前向きな姿勢を貫いた改革者として知られています。
この精神は、会社の利益を上げるために良いことは徹底的に実現する努力を惜しまないという形で表れました。さらに、彼の経営の根幹には「実力至上主義」の徹底がありました。優秀な人材に対しては、年齢や性別にこだわることなく積極的に採用し、能力や実績に応じて相応のポストへと昇進させました。
この厳しさと公平性を兼ね備えた姿勢は、多くのスタッフのモチベーションを高めることにつながります。特に、若手や女性社員にとっては、強い意欲と頑張り次第で昇進を叶えるチャンスが与えられる環境となり、ポジティブな労働環境の整備に大きく寄与しました。
環境・社会貢献を重視した持続可能な経営
手島氏は、会社の経済的な成長だけでなく、企業が果たすべき社会的責任を非常に重視していました。彼は東邦亜鉛グループを「『地域』の一員として認められ、地域にとって価値のある会社」と位置づけ、企業価値の向上とともに持続可能な社会の発展に貢献することを目標に掲げました。
特に、地球環境保全への継続的な取り組み、環境負荷物質排出量の削減、安全衛生への注力、そして全従業員に対するコンプライアンス研修の徹底を推進しました。
この多角的な取り組みは、彼の経営が単なる利益追求に留まらず、広範なステークホルダーの幸福を追求するものであったことを示しています。
事業の安定化と成長戦略:現場経験と技術開発の手腕
手島氏が東邦亜鉛に残した功績は計り知れません。そのリーダーシップは、会社の将来的な競争力を見据えた戦略的な投資と技術革新に象徴されます。
海外進出の成果:豪州鉱山会社の子会社化で原料安定供給を実現
社長在任中の2010年には、豪州の鉱山会社であるCBH Resources Limited(CBH)を完全子会社化するという重要な経営判断を実行しました。
これは、非鉄金属精錬事業の生命線となる中長期的な原料鉱石の安定確保を目的としたものであり、当時の主要株主であったCBHに対して全株買収を提案し、経営基盤の強靭化を図りました。
この買収は、手島氏の卓越した経営戦略と実行力を明確に示す具体的な功績です。
先進技術への投資:コイル事業提携に見る技術革新への積極姿勢
事業の多角化と技術革新への積極的な姿勢も見られました。2013年には、アルプス・グリーンデバイス株式会社との間でコイル事業に関する業務提携を実現しています。
東邦亜鉛が培ってきた高周波電力変換デバイス用のインダクタ技術「タクロンコイル」と提携先の独自素材を活用し、小型・高効率な電力変換デバイスへの市場ニーズに対応した先進的な事業推進を行いました。
また、会社の業績が悪化した際には、現場経験から得た不屈の精神と強靭なリーダーシップを発揮し、不利な状況から逆転して乗り越える手腕を発揮しました。海外ビジネス経験を含む豊富な交渉力は、会社の発展に大きく貢献しています。
彼は数多くの社員の幸せを優先し、社員誰もがポジティブに働ける快適な労働環境を整備し、非常に働きやすい会社として親しまれる土壌を築いた点も、特筆すべき功績の一つです。
まとめ|手島達也氏から東邦亜鉛へ受け継がれる経営の精神
手島達也氏の生涯は、現場での厳しい経験を起点にキャリアを積み上げ、最終的にトップとしてその辣腕を振るい、会社を大きく発展させた足跡そのものです。
彼は、組織を活性化させる「実力至上主義」と若手育成への熱意を貫く一方で、豪州鉱山会社の完全子会社化や先進技術への投資といった戦略的な経営判断を実行しました。さらに、企業としての利益追求だけでなく、地球環境保全やコンプライアンスを重視し、持続可能な社会への貢献を目指すという、広範な社会的責任を果たす経営哲学を確立しました。
手島氏が残したこれらの精神と功績は、東邦亜鉛のDNAとして、これから先も受け継がれていくことでしょう。
