日本の交通インフラの「安全」を長年にわたり支え続けてきた日本信号株式会社。その指揮を執るのが、代表取締役社長の塚本英彦氏です。
塚本英彦氏率いる日本信号の使命は、信号機や改札機といった公共性の高い製品を通じて、社会に不可欠な「安全と信頼」を提供し続ける同社の歴史と技術革新の最前線に立ち、新たな時代を見据えた経営戦略を推進することです。「いってきますからただいままで あなたのそばに日本信号」というキャッチコピーに象徴されるように、人々の生活に溶け込んだ幅広い分野で安全を支えてきました。
特に近年では、創業以来の使命を継承しつつ、長期経営計画「Evolution 100」を策定・実行し、ESG(環境・社会・ガバナンス)を強く意識したサステナブルな経営を掲げています。
本記事では、一人の技術者として日本信号に入社し、世界初のシステム開発に携わった輝かしいキャリア、そして経営者として日本信号を牽引する塚本氏の人物像、独自の経営哲学、そして世界から必要とされる企業を目指す未来へのビジョンに焦点を当てて解説します。
塚本英彦氏のキャリアパス:技術者から最高経営責任者(CEO)へ
塚本英彦氏は、現在も日本信号株式会社の代表取締役社長(東証プライム上場、コード番号:6741)を務めています。2016年6月に社長に就任されて以降、同社の持続的成長と「Realize-EV100」といった中期経営計画の推進に尽力しています。
塚本氏の「機械いじり」が育んだ技術者魂
まずは、塚本英彦氏のプロフィールを見てみましょう。
塚本英彦-日本信号株式会社公式サイトより| 名前 | 塚本 英彦(つかもと ひでひこ) |
|---|---|
| 生年月日 | 1958年9月15日 |
| 出身 | 愛知県 |
| 学歴 | 名古屋工業大学工学部 |
| 職業 | 日本信号株式会社代表取締役社長(社長執行役員) 取締役会議長 グループ経営会議議長 リスク管理委員会委員長 内部統制監査室担当 |
1958年に愛知県で生まれた塚本氏は、豊かな自然の中で育ち、幼少期から機械への強い興味を持っていました。実家が農業を営んでいた環境や、叔父が経営する会社での手伝いの経験から、車やバイク、無線機といった様々な機械に親しみ、ものづくりの楽しさに目覚めます。
この根源的な機械への探究心が、後のキャリアを決定づけました。地元での学びを重視し、自宅から通える名古屋工業大学工学部に入学。トランスやモーターなどの電気工学分野を熱心に研究し、技術者としての基礎を築きました。
世界初の挑戦:旅客搭載管理システム開発
大学卒業後の1982年、塚本氏は東京に本社を置く日本信号株式会社に入社しました。上京への憧れも持ちつつ入社したものの、最初の配属先は宇都宮工場の技術部でした。
塚本氏は自らのキャリアのスタートを「技術屋」と語り、当初はいわゆる情報システム関係の設計・製造に携わりました。ここで彼が担当したのは、磁気チケットを用いた航空会社の搭乗管理システムであり、塚本氏自身が「当時世界で初めてだったと思います」と述べるほど先進的な取り組みでした。航空会社と共同で開発を進めるという、まさに機械いじりと技術革新を愛する塚本氏にとって理想的な現場でした。
この後、駅の自動改札機や券売機が普及する流れの中で、塚本氏は長きにわたりシステムエンジニアリング業務を担当し、その経験を海外でも積みました。この一連の経歴が、後の経営者としての判断を支える「技術的なテーマに関するこだわり」の根源となっています。
代表取締役社長就任までの軌跡:COO・CEOを歴任した経営手腕
技術部門での実績を積んだ後、1991年に東京へ異動し、営業部門でキャリアを広げます。特に、2005年5月にはAFC事業部AFC営業部長に就任し、同社の主要事業である自動改札システム関連の部門を牽引しました。
その後の経営層への昇進は目覚ましく、2006年6月に執行役員に就任します。以降、2010年6月には取締役常務執行役員、2014年6月には専務執行役員経営管理本部長を歴任し、経営の中枢で手腕を発揮しました。
特に重要な転機は、2015年4月に代表取締役副社長 最高執行責任者(COO)に就任したことです。COOとして全社の業務執行を統括した後、2016年6月に代表取締役社長に就任し、現在に至ります。さらに、2020年6月には最高経営責任者(CEO)を兼任し、名実ともに日本信号グループのトップリーダーとしての責任を担っています。
現在も、社長業と並行してグループ経営会議議長やリスク管理委員会委員長、内部統制監査室担当など、多岐にわたる重要な職務を兼任し、全社のガバナンス強化を推進しています。
交通インフラの未来戦略:塚本氏が目指す「ワンストップ・プロバイダー」
塚本氏が率いる日本信号は、創業者の「日本に信号機を」という志を受け継ぎ、交通インフラの発展とともに歩んできました。
基幹事業である「鉄道の信号保安」という安全をコントロールするシステムに加え、現在は駅の自動改札機や券売機、道路交通の信号制御など、幅広い事業を展開しています。
「Evolution 100」:設立100周年に向けた長期ビジョン
塚本氏は、日本信号が設立100周年を迎える2028年に向けて、長期経営計画「Evolution 100」を策定し、実行を推進しています。この計画の背景には、技術革新のスピードやグローバル化の進展といった急速な外部環境の変化があります。
Evolution 100では、創業以来の「安全と信頼」の優れたテクノロジーを継承しつつ、技術の深化や担い手・人材育成を促進しています。そして、新しい事業領域を切り拓き、「インフラの進化」を安全・快適のソリューションで支えるプロバイダとして、世界の人々から必要とされる企業グループとなることを明確に目指しています。
創業の使命と未来戦略:「ワンストップ・ソリューション・プロバイダー」構想
日本信号グループの揺るぎない使命は「『安全と信頼』の優れたテクノロジーを通じて、より安心、快適な社会の実現に貢献する」ことです。
塚本氏は、今後の社会において「集約化されたシステムで最大限のサービスを提供する」という考え方が不可欠であると指摘しています。鉄道や道路交通といった単一の事業だけでは解決できない複合的な課題が増える中で、同社が「ワンストップ・ソリューション・プロバイダー」となることをビジョンとして掲げています。
これは、鉄道信号保安の基幹技術から得たノウハウを駅の機器や道路交通などへ複合的に活用し、顧客と社会に対し、安心かつ快適な統合サービスを提供するという強い意思を示しています。
「いってきますからただいままで」:信号機以外で社会を支える製品群
一般に「信号機メーカー」というイメージが強い日本信号ですが、塚本氏の言葉の通り、その事業領域は多岐にわたります。同社は、「いってきますからただいままで」の間に私たちの生活の至るところで製品やサービスを提供しています。
例えば、駅の改札機や券売機はもちろんのこと、空港のボーディング時に使用される搭乗管理システム(これには改札機や証明書発行機で培ったプリンター技術が応用されています)も手がけています。さらに意外なところでは、駐車場のフラップ板(ロック板)や遮断機なども同社の技術応用の一つです。
これらは鉄道信号保安システムを基幹とする、極めて信頼性の高い機構技術を応用したものであり、同社の技術が「交通信号」という枠を超えて人々の安全・安心な生活を支えていることがわかります。
ESG・SDGsを意識したサステナブル経営
塚本氏は、持続可能な社会の実現に向けた取り組み、すなわちESG(環境・社会・ガバナンス)とSDGsを強く意識した経営を推進しています。
塚本氏の代表挨拶では、交通インフラという公共性の高い事業に関わる企業の使命として、これらの要素を重視し、「すべての人々が安心して健康的に暮らせる社会に貢献し続けたい」という強い決意が示されています。
具体的には、環境の側面では、環境配慮型製品の拡大や事業活動における環境負荷の低減に努めています。また、社会との共生を重視し、障がい者支援や寄付活動などの地域社会貢献活動を積極的に展開しているほか、従業員とその家族の健康増進を推進する健康経営にも力を入れています。
経済・環境・社会の三つの視点を重視することで、短期的な利益追求にとどまらない、真に社会から尊敬される企業グループの実現を目指しています。
まとめ|世界が求める企業へ!塚本英彦氏が示す「技術×ESG」の真価
日本信号株式会社の代表取締役社長である塚本英彦氏は、愛知県で培った機械への情熱を原点に、世界初のシステム開発に携わった技術者としてのキャリアを経て、トップ経営者に上り詰めました。塚本氏のリーダーシップのもと、日本信号は創業以来の「安全と信頼」をコアバリューとしつつ、「インフラの進化」を支える企業として、鉄道・交通インフラの未来を切り開いています。
特に、ESG・SDGsを経営の柱に据え、環境への配慮や社会貢献活動にも力を入れる姿勢は、現代の企業に求められる責任と成長の両立を示しています。塚本英彦氏は、長年の経験と技術的な知見をもって、日本そして世界の交通システムの「より安心、快適な社会の実現」に貢献し続けています。
