1932年設立の歴史を有する中外鉱業株式会社において、2015年6月から2022年6月までの7年間にわたり代表取締役社長を務めた芳賀一利氏の足跡は、伝統的な貴金属・素材事業の堅持と、現代のコンテンツ市場への積極的な多角化を両立させた経営の変遷を体現しています。

売上高の大半を占める貴金属リサイクル事業の基盤を維持しながら、就任直後に新事業として「コンテンツ事業」を立ち上げ、キャラクターグッズの企画・製造・販売を通じて新たな成長分野を開拓し、収益源の多角化を推し進めました。

本記事では、外部企業での経営経験から中外鉱業顧問への就任、代表取締役社長として推進した事業構造改革、そして7年間にわたる経営の軌跡について、客観的な事実に基づき整理します。

芳賀一利のプロフィールと歩み|外部経営経験から中外鉱業社長就任までの経歴

外部企業の経営トップとして培った実務経験を経て中外鉱業に招聘され、代表取締役社長として組織の舵取りを担った芳賀一利氏。同氏が歩んできたキャリアの足跡と、経営トップ就任に至るまでの経緯を整理します。

芳賀一利氏

引用:第128期 中間報告書 – 中外鉱業株式会社

氏名 芳賀 一利(はが かずとし)
生年月日 1951年2月14日
出身校 福島県立平商業高等学校
主な経歴 東京ビジネスサポート株式会社 代表取締役社長
中外鉱業株式会社 顧問
中外鉱業株式会社 代表取締役社長(2015年6月〜2022年6月)

東京ビジネスサポートでの実績と中外鉱業顧問への招聘

芳賀一利氏は1951年2月14日に福島県で生まれ、1969年3月に福島県立平商業高等学校を卒業しました。社会人としての実務経験を重ねた後、2007年11月に東京ビジネスサポート株式会社の代表取締役社長に就任し、企業経営の実務を統括します。

同社において組織運営や事業管理の統括にあたり、経営者としての専門性と実践的なノウハウを蓄積していきました。その後、創業から80年以上の歴史を有する中外鉱業株式会社から招聘を受け、2014年12月に同社の顧問へ着任します。外部経営者としての視点とマネジメント経験を携えて社内体制の把握を進めたこの時期が、後の経営トップ就任に向けた基盤となりました。

参考:第129期 有価証グラフィック報告書 – 中外鉱業株式会社

2015年6月の代表取締役社長就任と新経営方針の始動

顧問として社内実務や事業体制の分析に携わった後、芳賀一利氏は経営体制の刷新に伴いトップマネジメントを担うこととなります。2015年6月26日付で開催された定時株主総会および取締役会を経て、葛山稔氏の後任として中外鉱業株式会社の代表取締役社長に就任しました。

社長就任にあたり芳賀氏は、「過去に培った技術およびノウハウの伝承」と「新しい分野への挑戦」を全社スローガンとして提示。ヒト・モノ・カネ・情報といった社内資源をグループ内で効率的に循環させ、柔軟な多角化戦略を展開しながらスピード感のある経営を目指す基本方針を打ち出しました。

既存の事業基盤を守るだけでなく、新たな成長分野の開拓を見据えた経営体制の始動は、同社のその後の事業展開に明確な指針を与える契機となっています。

参考:中外鉱業社長に芳賀氏 – 日本経済新聞
参考:第124期 中間報告書 – 中外鉱業株式会社

主力事業の統合と「コンテンツ事業」新設による事業構造改革

中外鉱業の経営を率いるにあたって芳賀一利氏は、創業以来の基幹ビジネスである貴金属分野の体制再編を進めるとともに、従来の素材・精錬業の枠組みを超えた新規事業の創出に注力しました。

長年蓄積された金属加工やリサイクルの技術力を維持しながら、事業ポートフォリオの刷新を推進した具体的な施策の足跡を辿ります。

貴金属事業と宝飾事業の統合による経営効率の向上

同社の売上高の大半を占める貴金属事業は、東京都大田区京浜島の東京工場を製造・精錬拠点とし、金やプラチナ地金の精製から加工、販売までを一貫して手掛けるリサイクルビジネスです。東京工場で製造される金地金は、純度99.99%(フォアナイン)の厳しい基準をクリアした東京商品取引所(TOCOM)認定の指定ブランドとして高い信用力を維持してきました。

芳賀氏の社長就任後、2017年4月に同社は営業体制の強化と経営資源の集約を図るため、独立した事業区分として展開していた「宝飾事業」を主力の「貴金属事業」へ統合しました。それまで「ルピナス」の屋号で展開していたダイヤモンドや各種宝飾品の買取・販売網を貴金属部門と一体化させることで、店舗運営や査定業務の効率化を推進しました。

この統合を通じて、自社工場で精製した地金を用いたオリジナル商品の開発や、中古宝飾品を新品同様に仕上げて再流通させるリメイク・リユース商品の販売を強化しました。さらに、2017年12月には香港の現地法人(JACK DIAMOND Co., Ltd.)を連結子会社化し、国内外のジュエリーショーや国際オークションへの出展を積極化させるなど、素材回収から製品販売に至るサプライチェーンの最適化を推し進めました。

参考:第126期 報告書 – 中外鉱業株式会社

アニメ・キャラクターグッズ市場への参入と独自商品の確立

伝統的な貴金属事業の効率化を進める一方、芳賀氏は2015年度に「コンテンツ事業」を新設し、サブカルチャー市場への参入を決断しました。

設立当初は全社売上高の0.1%(2015年度第2四半期売上高13百万円)にとどまっていた同事業ですが、アニメやコミック、ゲーム等の版権を活用した公式グッズの企画・製造・販売を通じて着実に事業規模を拡大させました。

同社は自社工場の金属加工技術を応用し、「遊☆戯☆王」の千年パズルやプロサッカーチーム「川崎フロンターレ」のマスコット「カブレラ」の純金製レプリカを製作するなど、祖業の強みとIPビジネスを融合させた独自商品を展開しました。

また、自社ECサイト「Chugaionline」の立ち上げやリニューアルを進め、AnimeJapan、ジャンプフェスタ、コミックマーケットといった来場者数十万人規模の大規模物販イベントへの出展を定例化させました。

俵型マスコット「もちころりん」

引用:第128期 中間報告書 – 中外鉱業株式会社

商品展開においては、俵型マスコット「もちころりん」が累計販売数50万個を超えるヒットを記録したほか、独自ブランド「ましゅコット」の商標登録申請中となるオリジナル商品の開発を加速させました。「鬼滅の刃」や「ヒプノシスマイク」といった有力IPのグッズ化に加え、TVアニメ「こみっくがーるず」などの製作委員会へ出資して商品化窓口権を直接確保する戦略を推進しました。

その結果、2019年度(第128期)第2四半期には同事業の売上高が594百万円(構成比4.5%)に達するなど、市況に左右されやすい貴金属相場を補完する新たな成長分野を開拓し、収益源の多角化を進めました。

参考:第124期 中間報告書 – 中外鉱業株式会社
参考:第128期 中間報告書 – 中外鉱業株式会社

芳賀一利の経営戦略と組織マネジメント|市況耐性と多角化の追求

中外鉱業の経営を指揮する過程において芳賀一利氏は、市況変動の影響を受けやすい素材・リサイクル産業の構造的課題に対応するため、複数の事業領域を組み合わせたリスク分散体制を構築しました。

相場変動の影響を緩和する事業ポートフォリオの分散管理と、異なる事業を円滑に共存させる組織運営の実態を追います。

資源市況の急変に備える事業ポートフォリオの分散管理

貴金属事業は同社の売上高の9割前後を占める主幹部門である一方、国際的な金やプラチナの相場、為替レートの変動、原材料の調達環境によって業績が大きく左右される特性を持っています。このボラティリティに対処するため芳賀氏は、貴金属事業を中核に据えつつ、機械事業、不動産事業、コンテンツ事業を組み合わせた多角的な事業構成を維持しました。

機械事業においては、グループ会社の株式会社インテックスを中心に全国主要都市で中古工作機械の展示場運営や現地入札会を展開し、産業設備のリユース需要を確実に取り込みました。不動産事業では、利便性の高い都心部における一戸建て住宅の分譲やマンションのリノベーション、オフィスビルの賃貸事業を手掛け、安定的な資金流入の確保を図っています。

さらに、景気動向や資源相場の波を受けにくいキャラクターグッズ需要に着目したコンテンツ事業を育成したことで、特定の市場環境への依存度を低減させました。各事業部門が保有する資産や営業網を相互に補完させ、グループ全体としての収益基盤の多角化を進めた判断は、市況変動に対する抵抗力を高める結果につながっています。

伝統技術の伝承と新規領域開拓を両立させる組織運営

組織マネジメントの領域において芳賀氏は、「過去に培った技術およびノウハウの伝承」と「新しい分野への挑戦」という二つの指針を全社的に示しました。東京工場に代表される貴金属の精錬・加工や中古機械の鑑定といった熟練技術を要する現場を守りながら、流行サイクルの速いアニメ・IPビジネスの現場へ機動的に権限を委譲する体制を整えます。

この方針は単なる事業の並列にとどまらず、部門間の技術連携という具体的な成果をもたらしました。貴金属事業部が保有する金属加工技術とコンテンツ事業部のIP活用ノウハウを結びつけ、純金製のキャラクター工芸品や精密なコラボレーション商品を開発・製品化する仕組みを定着させています。

ヒト・モノ・カネ・情報といった社内資源をグループ内で効率よく循環させ、スピード感のある経営を推進しました。BtoB主体の素材・機械産業と、即応性が求められるBtoCのエンターテインメント領域をひとつの組織内で機能させた運営手法は、同社の事業基盤を強固にする礎となりました。

経営体制の刷新と中外鉱業における芳賀体制の足跡

2015年6月の就任から7年にわたり中外鉱業の経営を主導した芳賀一利氏は、外部環境の変化に応じた企業基盤の安定化と多角化を推し進めたのち、経営体制の刷新と次世代への事業承継を選択しました。東証スタンダード市場への移行期における経営判断と、退任に至るまでの経緯を追います。

2022年4月、東京証券取引所における市場区分の見直しに伴い、中外鉱業は東証スタンダード市場を選択して新たなスタートを切りました。その直後となる2022年5月13日開催の取締役会において、同社は「経営体制のより一層の強化と発展を図るため」として代表取締役の異動を決議します。

そして2022年6月29日に開催された定時株主総会および取締役会の終結をもって、常勤監査役を務めていた西元丈夫氏へ社長職を引き継ぎ、芳賀氏は7年の任期を終えて退任しました。

芳賀氏が率いた2015年から2022年までの期間は、祖業である貴金属精錬・リサイクル事業の基盤を維持しながら、就任直後に新設したコンテンツ事業を軌道に乗せた変革の時代でした。金属加工技術とキャラクターIPの融合や自社ECサイトの拡充、アニメ製作委員会への参加などを通じ、素材や機械を中心としていた事業構造に新たな成長分野を定着させ、市況変動に耐えうる多角的なポートフォリオの確立に寄与しました。

参考:代表取締役の異動に関するお知らせ – 中外鉱業株式会社

まとめ

外部企業の経営トップとして培った知見を携えて中外鉱業株式会社に招聘され、2015年6月から2022年6月までの7年間にわたり代表取締役社長を務めた芳賀一利氏の足跡は、老舗素材企業における事業ポートフォリオ変革の歴史を物語っています。

就任時に掲げた「過去に培った技術およびノウハウの伝承」と「新しい分野への挑戦」という指針のもと、主力の貴金属事業においては宝飾事業との統合を実施し、経営効率の向上とリサイクル・リユース網の再構築を進めました。さらに、就任直後に新設した「コンテンツ事業」では、自社工場の金属加工技術を活かした純金製工芸品の製作や「もちころりん」をはじめとする独自キャラクターグッズの開発を展開し、サブカルチャー領域における収益源の多角化を定着させています。

機械事業や不動産事業を含めた多角的な事業構成を機能させ、資源市況の急激な変動に対するリスク耐性を高めた経営判断は、企業体質の安定化に寄与しました。

2022年4月の東証スタンダード市場への移行を経て、同年6月に後任の西元丈夫氏へ社長職を引き継ぐまで、伝統技術の継承と新領域の開拓を両立させた芳賀体制の施策は、創業90年を超える同社の持続的成長を支える基盤となっています。